総資本回転率は、企業の財務指標の1つです。
企業が資本をどれだけ効率的に活用しているかを評価するための指標で、これは売上高と総資本(固定資産や運転資金などの資本全体)との関係を示す数値になります。
通常は次のように計算されます。
総資本回転率 = 売上高 / 総資本
それでは、基礎がわかったところでこの指標についてじっくりみていきましょう。
投資家にとっての意味
総資本回転率は、投資家にとっていくつかの重要な意味を持ちます。
効率性の評価
総資本回転率は企業の資本効率を評価するのに役立ちます。
高い総資本回転率は、企業が少ない資本で多くの売上高を生み出していることを示し、資本を効果的に活用している可能性が高いことを示唆します。
収益性の予測
総資本回転率は、将来の収益性を予測するための手がかりとして使用できます。
高い回転率は、収益性が高まる可能性があることを示す一因となります。
比較対象としての利用
総資本回転率は、異なる企業や業界の比較に使用できます。
投資家は、同じ業界内の企業や競合他社と比較することで、資本の効率的な利用に関する洞察を得ることができます。
リスク評価
総資本回転率が低い企業は、資本の効率的な利用が難しい可能性があり、投資家はこのような企業がリスクを抱えていると考えることができます。
総資本回転率が高いほど良いのか?
総資本回転率は、一般的に高いほど良いとされる傾向があります。
ですが必ずしも高い総資本回転率がすべての場合に適しているわけではありません。
高い総資本回転率は、資本を効率的に活用して大きな売上高を生み出すことを示唆しますが、その評価には文脈による要因も含まれます。
総資本回転率を利用するメリット①:リターンを見込める
高い総資本回転率は、同じ資本で多くの収益を生み出す能力を示し、資本の効率的な活用を反映しています。
資本をうまく利用する会社に投資をすれば、投資家はその分のリターンを得ることになるので、投資対象として魅力的です。
総資本回転率を利用するメリット②:リスクが低い
資本回転が速い企業は、効率的に資本を活用するため事業リスクが低く、市場変動に適応しやすい特徴があるといえます。
投資家にとってリスクが低いということは投資する大きなモチベーションとなります。
総資本回転率を利用する上で、注意すべき点
投資を行い際にはそう資本回転率だけでなく様々な視点から分析を行う必要があります。
競争力
総資本回転率が高い事業分野はITやコンサルティング、サービスなどがあります。
どの業界も競争にさらされている厳しい業態であり、総資本回転率が高いといえど、急に指標が悪くなる場合もあります。
投資をする上では投資先の外部環境も注視する必要があります。
成長可能性・持続可能性の点から考えてみる
過度に高い回転率を追求することは必ずしも良いとは限りません。
総資本回転率の向上を求めすぎると、サービス品質の低下や資本を得る際の制約となりかねません。
これらは長期的な成長を阻害する可能性があるので数字に囚われすぎないようにしましょう。
一時的に、数値が下がるなどはよくあることのため、やはり企業の成長性や競争に勝つための成長への投資が適切に行われているか判断する長期的かつ持続可能かどうかを見定める視点が必要になるでしょう。
業界・業態によって使い分ける
後述しますが、総資本回転率は高くなりやすいセクターと、低くなりやすいセクターがあります。
総資本回転率が低くなりやすい業種
総資本回転率が低くなりやすい業種は、一般的に長期的な資本投資が多く、資本の回転が遅い業種が該当します。
不動産開発
不動産開発業界は、土地の取得、プロジェクトの開発、建設、販売など、多額の資本を要するプロセスを含みます。
プロジェクトが完了するまでに時間がかかり、資本回転が遅いことが一般的です。
三菱地所の総資本回転率は0.2ほどでした。
三井不動産の総資本回転率は0.3ほどでした。
住友不動産の総資本回転率は0.2ほどでした。
鉱業と採掘
鉱業や採掘業も、資本集約的であり、資本を大規模な機器や施設に投資する必要があります。
また、鉱物資源の探査、採掘、精錬などに時間がかかるため、回転率は低い傾向があります。
INPEXの総資本回転率は0.2(2021年)~0.4(2022年)でした。
JAPEXの総資本回転率は0.4(2021年)~0.6(2023年)でした。
K&Oエナジーグループ株式会社の総資本回転率は0.6(2020年)~1.0(2022年)でした
エネルギー産業
エネルギー産業も大規模な資本投資を必要とし、エネルギー設備の建設、保守、運用に多額の資本が必要です。
エネルギープロジェクトはしばしば数十年以上の寿命を持つため、回転率は低くなりがちです。
航空宇宙産業
航空宇宙産業は高度な技術と大規模な資本を必要とし、航空機や宇宙船の設計、開発、製造に膨大な資本が投入されます。
プロジェクトの期間が非常に長いため、回転率が低いことが一般的です。
※日本では、純粋に、航空宇宙産業に特化した上場企業は限られています。
多くの場合、大手の総合エンジニアリング企業や製造業者が航空宇宙分野に関連する事業を展開しています。
重工業
重工業セクターは、製鉄、造船、自動車製造など、大規模な製造プロセスに資本を投入するため、回転率が低いことがあります。
総資本回転率が高くなりやすい業種
総資本回転率は業態によってはもちろん高く出やすい業種があります。
早速紹介していきます。
テクノロジーセクター
ソフトウェア開発、アプリケーション開発、クラウドサービスなど、テクノロジー企業は通常、物理的な資産を持たず、主に知識とデジタルプロダクトを提供します。
これにより、資本投資が少なくて済み、迅速な成長が可能です。
インターネットサービス
オンライン広告、ソーシャルメディアプラットフォーム、Eコマースなど、インターネットを活用したビジネスモデルは、比較的少ない資本でスタートアップとして立ち上げられ、成長することがあります。
コンサルティング
コンサルティング企業は、主に知識と専門的なアドバイスを提供し、物理的な設備を必要としません。
資本の大部分は人材とトレーニングに投資されます。
サービス業
レストラン、ホテル、旅行代理店などのサービス業は、資本の主要なコストは建物や設備ではなく、人材や運用にかかります。
メディア
デジタルメディア、放送、出版業界など、メディア関連の企業は、コンテンツの制作と配信に主に資本を投入します。
物理的な資産は比較的少ないことが一般的です。
まとめ
総資本回転率は企業の資本効率を評価する重要な指標です。
一般的に高い回転率は、資本を効率的に活用し、多くの売上高を生み出す能力を示します。
高い回転率は資本の効率的な運用を反映し、リスクの低減と収益の増加に寄与することがあります。
しかし、必ずしも高い回転率がすべての場合に適しているわけではありません。
競争状況や業界特性により、適切な回転率は異なることがあります。
また、持続可能性と業務モデルによる違いも考慮すべきです。
結局のところ、総資本回転率は企業の独自の状況と戦略に合わせて評価されるべきであり、単純に高い回転率が良いわけではないことを理解することが重要です。
これらを鑑みて、資本回転率は、企業の戦略と業界の要因を総合的に考慮する上で役立つ指標であることを覚えておきましょう。